カドエンス、ヘクサゴンの設計・エンジニアリング事業を買収し、物理AIとシステム設計・解析分野での展開を加速
カデンス(Cadence, Nasdaq: CDNS)は、スウェーデンのヘクソゴン・エイブ(Hexagon AB)の設計・エンジニアリング(D&E)事業部を買収する包括的な合意に調印した。この事業部には、エンジニアリングシミュレーションと解析ソリューションの先駆者として知られるMSCソフトウェアが含まれる。今回の買収は、カデンスが推進する「インテリジェント・システム設計(Intelligent System Design™)」戦略を加速させる重要な一歩であり、同社の「Cadence® システム設計・分析(System Design & Analysis)」製品ポートフォリオを大幅に拡充するものだ。 買収の背景には、半導体および電子システム設計の複雑化が挙げられる。現代のシステム設計は、ハードウェアとソフトウェアの統合、高精度なシミュレーション、そして設計ライフサイクル全体の最適化が不可欠となっており、その領域でMSCソフトウェアが長年培ったシミュレーション技術は、カデンスの設計ツールと相性が良い。特に、構造力学、熱解析、振動・疲労解析、多体動力学(Multibody Dynamics)などの分野で高い評価を受けているMSCのソフトウェアは、自動車、航空宇宙、重工業、医療機器など幅広い産業で活用されている。 今回の買収により、カデンスは設計段階から実機性能評価までの一貫したシミュレーション環境を提供できるようになり、設計の精度と効率が飛躍的に向上する。特に、システム設計の初期段階で物理的特性を予測できる能力は、開発期間の短縮とコスト削減に寄与する。この戦略的統合は、カデンスが「設計から実装まで」を包括的にサポートするプラットフォームの構築を進める上で、決定的な転換点となる。 買収の手続きは、通常の審査プロセスを経て、2024年中にも完了する見込み。ヘクソゴン・エイブは、買収後もカデンスの戦略的パートナーとして、他の事業部門との連携を継続する方針だ。カデンスのジェームズ・ホルトン最高経営責任者(CEO)は、「MSCソフトウェアの技術力と、カデンスのシステム設計ソリューションの融合により、次世代の複雑なシステム開発が可能になる」と述べ、今後の技術革新への期待を示した。 背景として、MSCソフトウェアは1970年代から続くエンジニアリングシミュレーションのパイオニアであり、NASAやフォード、ボーイングなど世界の主要メーカーが採用している。一方、カデンスは半導体設計自動化(EDA)分野で世界をリードする企業で、近年はシステムレベルの設計支援に注力している。両社の技術的相乗効果は、IoT、自動運転、AI搭載デバイスなど、高度な統合システムの開発を加速させる。専門家からは、「この統合は、設計のデジタルツイン化を進める上で画期的」との評価が相次いでおり、業界全体の設計プロセスの再定義を促す可能性がある。