AIが「標的不可」な病気タンパク質を狙う新薬設計技術を実現
カナダ・マクマスター大学、アメリカ・デューク大学、コーンェル大学の共同研究チームが、従来「ドラッグできない」とされていた病気関連タンパク質を標的とする新規AIツールの開発に成功し、Nature Biotechnologyに論文を発表した。このAIモデル「PepMLM」は、従来の薬物開発が依存するタンパク質の3次元構造の情報に頼らず、アミノ酸配列だけからペプチド薬を設計できる点が画期的だ。 2024年のノーベル化学賞を受賞したGoogle DeepMindのAlphaFoldは、タンパク質の構造予測に革命をもたらしたが、がんや神経変性疾患に関与する多くのタンパク質は構造が不安定で、従来のアプローチでは標的とできなかった。PepMLMは、チャットボットに使われる言語理解アルゴリズムを改造し、タンパク質の「言語」としての配列を解析する仕組みを構築。これにより、構造情報が不明なタンパク質に対しても、結合できるペプチドを設計可能となった。 実験では、がん、ハンチントン病、生殖器疾患、さらにはウイルス感染に関与するタンパク質に対しても、AIが設計したペプチドが効果的に結合し、一部ではタンパク質の分解を促進することが確認された。マクマスター大学の博士課程学生・クリスティナ・ペンが率いるハンチントン病研究グループは、細胞内での毒性タンパク質の分解効果を実証。ペン氏は「従来の薬では効果が得られなかった疾患に、新たな治療の可能性が開けた」と語る。 コーンェル大学のマシュー・デリーザらとデューク大学のプラナム・チャッタジーらも、ペプチドの合成・検証に貢献。研究リーダーのチャッタジー氏(現在、ペンシルベニア大学教員)は「この技術により、任意のタンパク質を任意のタンパク質と結合・分解・安定化できるようになる」と強調。今後は、体内での安定性や標的性を高める次世代AI「PepTune」や「MOG-DFM」の開発を進める予定だ。 チャッタジー氏は「最終目標は、アミノ酸配列から始まり、実用的な薬にまでつながる汎用的でプログラム可能なペプチド医薬プラットフォームの構築」と語り、AIを活用した次世代治療の実現に向けた一歩を示した。