英伟达が10月15日から販売開始するDGX Sparkは、3999ドルで個人用AIスーパーコンピューターとして登場。小型ながらペタフロップ級の性能を備え、家庭や企業のデスクトップにAI処理力を実現。スペースXではイーロン・マスクが導入し、個人向けAI基盤の時代が本格化。
英伟达(Nvidia)は2025年10月15日から、世界最小のAIスーパーコンピュータ「DGX Spark」の販売を開始した。このデバイスは、128GBの統合メモリと4TBのNVMe SSDを搭載し、1ピタフロップ(1000兆回/秒)のAI演算性能を実現。ARMベースの20コアCPUと「Grace Blackwell」GPUを搭載し、2000億パラメータ規模の大規模言語モデル(LLM)をローカルで実行可能。消費電力は240Wと、従来のデータセンター向けAIマシン(3200W)に比べて大幅に低く、標準のコンセントでも動作するため、家庭や研究室での設置が容易だ。価格は3999ドル(約60万円)と高価だが、対象はAI開発者、研究者、学生といった専門家層。英伟达は「次世代の革新を促す」とし、AIの民主化を目指す。 DGX Sparkは、CES 2025で「Project Digits」として発表され、IFA 2025ではアcerやデル、MSIなど複数のパートナーが独自のモデルを発表。アcerのVeriton GN100も同価格で販売される。同機はWindowsではなく、Nvidiaが最適化したUbuntuベースのカスタムLinuxを搭載し、OllamaやHugging FaceなどのAIツールが事前インストールされている。これは、AI開発を「即座に始められる」環境を提供するための設計だ。 特に注目されたのは、英伟达CEOのジェンスン・黄(Jensen Huang)氏が、スペースXのスターベース(テキサス州)でイーロン・マスク氏にDGX Sparkを手渡した場面。この行動は、AIの次世代開発が「宇宙開発の現場」にも広がっている象徴的な出来事とされ、マスク氏が自らのAI企業xAIで使用する可能性が示唆された。同機は、ロボティクス研究やクリエイティブスタジオ、Ziplineなどの実用開発現場でも導入が進んでいる。 一方で、DGX Sparkは「PC」としての汎用性は低い。日常的なタスクやゲームには不向きで、主にAIモデルのトレーニングや実験に特化している。現行のPCでは100TOPS程度のAI性能が限界だが、DGX Sparkは1000TOPSを達成。これは、QualcommのSnapdragon X2 Elite Extreme(70TOPS)を大きく上回る。ただし、Nvidiaの最新GPU「RTX 5090」(3352TOPS)には及ばない点も注目すべき。 背景として、英伟达は2016年のDGX-1以来、AIの基盤をデータセンターから「個人のデスク」へと移行させようとしている。DGX Sparkは、AI開発のハードルを下げる「入り口」として位置づけられ、将来的にはさらに大型の「DGX Station」も登場する見通し。この動きは、AIが専門家に限らず、多くの創造的な人材に広がる時代の始まりを示している。