OpenAI、医療分野進出へInstagramとDoximity元幹部を起用
OpenAIは、医療AI分野への本格的な進出を加速している。2024年6月には、医療業界向けネットワーキングツール「Doximity」の共同創業者であり、元最高戦略責任者(CSO)のネイト・グロス氏が同社に加わり、医療分野の市場戦略を統括する役割を担う。さらに、Instagramの元共同プロダクト責任者であるアシュリー・アレクサンダー氏が7月に同社の健康事業部門の副社長に就任し、患者と医療従事者の両方を対象としたプロダクト開発を主導する。この動きは、OpenAIがこれまで外部企業のプロダクトを支える形で医療AIに携わってきたのに対し、自社の医療AI製品を直接市場に展開するという戦略の転換を示している。 同社は5月に、医療AIモデルの性能を評価するオープンソースベンチマーク「HealthBench」を発表。これは、医療分野でのAIの正確性と安全性を測定するための基準として注目されている。さらに、8月のGPT-5発表では、「健康関連の質問に対して最良のモデル」と位置づけ、患者の検査結果の解釈や、治療選択肢の理解を支援する機能を強調。例として、高校野球投手の軽度のUCL損傷に対する6週間のリハビリ計画を生成したと紹介している。 CEOのサム・アルトマン氏は、医療AIの普及を「AGI(汎用人工知能)の定義的な影響の一つ」と位置づけ、白宮主催の「Make Health Tech Great Again」イベントにも出席。このイベントでは、60社が参加する医療データの共有枠組みが発表され、OpenAIもその一環として、患者向けの対話型AIアシスタントの開発を進める。また、新任のアプリケーション部門最高責任者であるフィジ・シモ氏は、自身の難病体験から「AIは患者が自らのケアを主導できるようにする」と語り、医療情報の理解を容易にするツールの開発に意欲を示している。 一方で、医療AIの活用には懸念も伴う。スタンフォード大学の研究では、ChatGPTが医師よりも高い診断精度を示すケースもあったが、誤ったアドバイスが命を脅かす事例も報告されている。例えば、患者に誤ってブロミド補給を勧めた結果、ブロミド中毒による精神障害が発症したケースがある。また、AIの「ブラックボックス性」と、人間がAIの判断を過信する「自動化バイアス」のリスクが、医療現場での誤りを助長する恐れがある。 OpenAIは、医療AIの研究をカラン・シンガル氏が引き続き率いるが、グロス氏とアレクサンダー氏の登用により、開発から市場展開までの一貫した体制を構築。現在、医療AI研究者やソフトウェアエンジニアの採用も継続中。同社は、MicrosoftやPalantir、Googleといった先行企業と競合する中で、自社のAI基盤を活かした医療インフラの構築を目指している。医療AIの未来は、技術の可能性とリスクの両面から検証され続けるが、OpenAIはその鍵を握る存在になりつつある。