15億ドルのオファーも拒否したAI界の奇才が選んだ道
15億ドルの報酬を提示されても断った人物――37歳のオーストラリア人AI研究者、アンドリュー・トゥルロチ。彼は、マスク・ザッカーバーグが率いるMetaから、潜在価値15億ドルに及ぶ6年間の報酬契約を提示されたが、断った。この決定は、シリコンバレーのAI人材争奪戦の新たな局面を象徴している。 トゥルロチは、2010年に高盛で統計的アービトラージ戦略を担当し、2012年にMeta(当時Facebook)に移籍。11年間にわたり機械学習システムの開発に従事し、PyTorchの基盤構築にも貢献。2023年10月、OpenAIに移籍し、GPT-4oやGPT-4.5の予訓練に携わるなど、大規模言語モデルの技術的核を担った。2024年9月、同僚のミラ・ムラティがAIスタートアップ「Thinking Machines Lab(TML)」を設立した際、彼も共同創業者として参加した。 当初、OpenAIは彼を獲得できなかった。2016年、当時のOpenAI幹部グレッグ・ブロクマンは、トゥルロチの年収80万ドルに対し、17.5万ドルの年俸と12.5万ドルのボーナスという条件を提示。彼は「大きな給与減を強いられることを懸念」し、当時はMetaに残留した。しかし、10年を経て、彼は再び「技術的ビジョン」と「研究の自由」を重視する環境を選び、Metaへの復帰を拒否した。 TMLは2025年2月に設立され、わずか数か月で120億ドルの評価額を達成。ムラティは、AIの透明性・カスタマイズ性・普遍性を追求する「人間中心のAI」を掲げ、ベル研究所の協働文化を模倣した平等な組織体制を採用。同社には20人以上の元OpenAIメンバーが参加しており、Metaの高額オファーにも全員が応じなかった。 この現象の背景には、トップAI研究者たちの価値観の変化がある。彼らはすでに十分な資産を有しており、金銭的インセンティブの効果は薄れている。さらに、Metaの広告主依存型ビジネスモデルへの懸念も大きい。多くの研究者は、「AIの真の進化は、広告のために使われるのではなく、人類の知的進歩に貢献する場所で行われるべき」と考えている。 トゥルロチの選択は、単なる給与の問題ではなく、技術の方向性と組織文化に対する深い信頼の証である。MetaがAI人材を獲得するには、単なる金銭的優位性を超えて、真の研究環境とビジョンの説得力が求められている。