AIの隠れた環境コストが明らかに——Google、1回の質問で消費する電力・水・CO₂を初公開
人工知能(AI)の環境負荷が、ついに注目されるようになった。グーグルが初めて、ユーザーがGeminiに1つの質問を投げかけるたびに消費するエネルギーと排出される二酸化炭素を公表した。その数値は、電力0.24ワット時(マイクロ波を1秒間稼働させる程度)、CO₂排出量0.03グラム、冷却に必要な水はわずか0.26ミリリットル(約5滴)に相当する。6年前まで、こうした「プロンプトレベル」の環境コストは企業が公表する対象ではなく、AIのエネルギー消費は内部的な経営指標に過ぎなかった。 この変化のきっかけとなったのは、2019年にマサチューセッツ州アムステルで発表された、エマ・ストゥーベル博士の論文だ。彼女は、自然言語処理の最先端モデルを訓練する際、最大で5台分の自動車の一生分のCO₂排出量に相当するエネルギーを消費する可能性があると突き止め、大きな衝撃を与えた。この研究は、AIの膨大なエネルギー消費を「誰もが理解できる具体的な数値」に変換し、技術の「クリーンさ」の神話に一石を投じた。 その影響は、2021年にティムニット・ゲブル氏らが発表した「Stochastic Parrots」論文にまで及ぶ。同論文は、モデルが大きくなるほど環境負荷が増すだけでなく、倫理的・社会的なリスクも伴うと警告。この主張が、グーグル内部で反発を呼び、ゲブル氏は論文の撤回を迫られ、最終的に解雇された。この出来事は、AIの環境・倫理問題が企業の内部で封印されがちな現実を暴き、世界中で大きな反響を呼んだ。 その後、グーグルのデイブ・パットン氏が「AIの炭素排出は過大評価されている」と主張する一方で、企業は徐々に透明性を高める動きを見せた。2024年、グーグルが初めてプロンプト単位の詳細データを公開。その結果、TPUチップが58%、CPUとメモリが25%、冷却とオペレーションが8%を占めることが明らかになった。また、1年間でエネルギー効率は33倍向上、CO₂排出量は44倍削減されたと報告。しかし、効率化が進むことで利用が増える「ジェヴォンズの逆説」の懸念も指摘されている。 専門家は、地域ごとの電源構成やハードウェア製造時の炭素負荷を含む「ライフサイクル分析」の必要性を訴える。AIが社会を形作る時代に、透明性は技術の進化と同等に重要である。グーグルの発表は、企業の責任を問う新たな出発点となった。