AI時代のデータ格納革命:Tigrisが「分散型ストレージ」で大手クラウドに挑戦
AIの急成長に伴い、計算資源の需要が飛躍的に増加する中、CoreWeaveやTogether AI、Lambda Labsらが分散型コンピューティング市場を牽引している。しかし、多くの企業は依然としてAWS、Google Cloud、Microsoft Azureといった「大手クラウド」にデータを保存している。これらのクラウドのストレージは、自社の計算資源にデータを近接させる設計となっており、複数のクラウドや地域にまたがる分散型AIワークロードには不向きだ。 こうした課題に向き合うのが、Uberのストレージプラットフォームを開発した元チームが創業したTigris Dataだ。同社の共同創業者兼CEOであるオーヴァイス・タリク氏は、「AIのインフラは分散型に移行している。しかし、ストレージはまだ中央集権的。ストレージがなければコンピューティングは意味がない」と指摘。Tigrisは、GPUの配置に応じてデータを自動的に再配置し、数十億の小ファイルを高速で扱えるAIネイティブな分散ストレージネットワークを構築している。 このたびTigrisは、Spark Capitalが主導する2500万ドルのSeries A資金調達を完了。既存投資家であるAndreessen Horowitzも参加。タリク氏は、大手クラウドの「エグレス料金(クラウド税)」が高額であり、データを別のクラウドに移動するたびにコストが発生すると批判。これは、ジムを変えるたびに追加料金を払うようなものだとたとえた。 また、データの集中化による遅延も大きな問題とし、特に画像・音声・動画生成AIの開発者にとっては、低遅延なローカルストレージが不可欠だと強調。Tigrisの顧客であるFal.aiのエンジニア責任者バトゥハン・タスカヤ氏は、「エグレス料金がクラウド支出の大部分を占めていたが、Tigrisを使えばその心配がなくなる」と語る。 さらに、金融や医療分野ではデータのセキュリティと自主性が重視される。また、SalesforceがSlackデータのAI利用を制限した事例からも、企業が自らのデータを掌握したいという傾向が強まっている。 Tigrisは2021年11月の設立以来、年間8倍の成長を記録。現在、バージニア、シカゴ、サンノゼにデータセンターを保有し、今後はロンドン、フランクフルト、シンガポールなど欧州・アジアにも展開を拡大する予定だ。分散型AI時代にふさわしい、柔軟で低遅延なストレージインフラの構築を目指している。