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AI時代の大学試験に新たな危機:「解決できない問題」として浮上した評価のジレンマ

5日前

生成AIの急速な進展により、大学の試験は「解決の難しい問題(wicked problem)」に陥っていると、デイキン大学の研究者らが警告している。2024年後半に実施された20名の教務責任者へのインタビューを基にした論文が、学術誌『Assessment & Evaluation in Higher Education』に掲載された。研究チームは、AIの影響で試験設計と監視が極めて複雑化しており、教授たちが「明確な解決策を持たないまま、妥協と葛藤の中で試行錯誤を強いられている」と指摘する。 AIツール(例:ChatGPT)の普及により、従来の試験形式はその有効性を失いつつある。一部の教員はAIを学習の一部として受け入れ、学生がAIを正しく活用できる力を育てることを重視するが、他はAIによる不正行為として捉え、学習の本質を損なうと懸念する。結果として、AIを許容するか否かの判断に迷い、試験形式の多様化が進むが、その一方で教授の負担は倍増する。ある教員は、AI許可・禁止の両方の課題を並行して管理しようとしたが、「実務的に不可能な負担」と語っている。また、口頭試験やプレゼンテーションといったAIに強い形式も、大規模な学生集団では運用不可能という現実がある。 研究者らは、こうした問題に「正解」はないと明言する。AIによる試験の対策は、一時的な解決ではなく、継続的な調整と妥協を伴うものだと強調。彼らは「大学は『完璧な答え』を追い求めず、教員に『妥協する権利』と『試行錯誤の自由』を与えるべき」と提言。評価方法は場面によって異なり、ある方法が成功しても別の場面では失敗する可能性があるため、柔軟なアプローチが不可欠だと説明している。 実際の現場では、手書きの課題や個人的なフィードバック、ライブプレゼンテーションなど、AIに真似されにくい要素を導入する動きがある。一方で、AIを活用してレポート作成やテスト作成の作業を効率化する教員もいる。経済学者のタイラー・カーウェンやLinkedIn共同創業者のリード・ホフマンらも、AIの台頭が「簡単な課題や点数で評価できる試験」の限界を露呈していると指摘。今後は口頭試験やAI自体を活用した評価システムが求められると予測している。 結論として、AI時代の教育評価は「完璧」ではなく、「適応的で柔軟なプロセス」であるべきだという。教員の負担を軽減しつつ、学習の真の価値を守るためには、一時的な対策ではなく、長期的な評価の再設計が不可欠である。

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