OpenAI、マイクロソフトとの和解で「フルスタック」戦略の本格展開へ
OpenAIがマイクロソフトとの長期にわたる契約紛争の解消に向けて合意し、企業構造の見直しを進める中、同社は「フルスタック」戦略の実現に向けた道筋を明確にしつつある。この戦略は、AIの開発からハードウェア、データセンター、ソフトウェアアプリケーションまで、すべてを自社で開発・運営するという野心的な構想だ。同社のCFO、サラ・フライア氏はゴールドマン・サックスのテック会議で、「今後、OpenAIは非常にフルスタックな企業になる」と語り、自社の技術的「モート」(競争優位)と革新的なビジネスモデルの構築を視野に入れている。 現在、OpenAIはGPT-5やオープンウェイトモデルの開発でモデル層で既に強みを築いている。開発者向けAPIを活用し、400万人以上の開発者がプラットフォームに参加。さらに、Jony Iveが率いるAI端末スタートアップを60億ドル超で買収し、ChatGPTをどこでも使える形に進化させる構想を進めている。また、Webブラウザの開発や、AI求人プラットフォーム「OpenAI Jobs Platform」の立ち上げにより、ユーザーへの広範な配信戦略を強化。 ハードウェア面では、チップ設計にGoogleのTPU開発経験を持つリチャード・ホ氏を起用。データセンターについては、今後自社所有・運営を計画。エネルギー面では、サム・アルトマン氏が支援する核融合スタートアップ「Helion」など、電力供給の自立も視野に入れている。 この一連の動きは、グーグルが25年かけて構築したAI基盤(チップ、データセンター、モデル、開発者プラットフォーム、広範なユーザー接点)に匹敵する「AIエコシステム」の構築を目指すものだ。ただし、実現には数千億ドル規模の資金調達と、技術的・経営的な成功が不可欠。マイクロソフトとの合意により、ソフトバンクからの100億ドル規模の資金調達も現実味を帯びてきた。 OpenAIは、AIの「夢」を実現するため、今後も自社基盤の完全掌握を進める。成功すればAIのリーダーとしての地位を確立するが、失敗すれば財務的リスクが膨らむ危険性も伴う。その行方には、世界のAI競争の行方が大きくかかっている。