AIが有害タンパク質を隠蔽する脅威発覚、マイクロソフトらが「ゼロデイ脆弱性」を解明し、DNA合成業界にセキュリティ強化を提言
人工知能(AI)が有害なタンパク質の設計を可能にしていることが、マイクロソフトと複数の研究機関、DNA合成企業による共同研究で明らかになった。この研究は、『サイエンス』誌に掲載され、AIによる生物安全上の「ゼロデイ脆弱性」を実証した画期的な成果だ。 研究チームは、72種類の既知の危険タンパク質(例:蓖麻毒素、ボツリヌス神経毒素)を対象に、AI駆動のタンパク質設計ツール(ProteinMPNN、EvoDiff-MSA、EvoDiff-Seq)を用いて、7万6080種類の改変された変異体を計算上で生成。これらの変異体は、元のタンパク質の三次元構造を維持しつつ、DNA配列を大きく変更しており、従来の生物安全スクリーニングシステムが検出できない可能性がある。 実験では、4つの主要なDNA合成企業が使用しているスクリーニングシステムを検証。結果、いずれのシステムも30%から70%の変異体を誤って「安全」と判定するという深刻な漏れを示した。これは、AIが既存の「類似配列照合」型システムを巧妙に回避できることを意味する。 この脆弱性を突いた「赤チーム演習」により、研究チームはAIによる悪意あるタンパク質設計のリスクを可視化。その後、マイクロソフトとTwist Bioscience、Integrated DNA Technologies(IDT)、Aclid、英国バーミンガム大学らが連携し、新たなスクリーニングアルゴリズムを開発。これにより、平均漏れ率は3%まで低下。一部のシステムでは1%まで改善された。 マイクロソフトの科学責任者エリック・ホーヴィッツ氏は、「AIの進化に伴い、生物安全の防御も進化させる必要がある。我々は、脆弱性を発見し、迅速に修正する仕組みを構築した」と強調。この取り組みは、サイバーセキュリティのゼロデイ対応プロトコルを生物学的リスクに応用した初の事例と評価されている。 研究の意義は、AIの利便性とリスクの両面を認識し、開発者・企業・研究機関が協働で安全基準を強化する必要性を示した点にある。今後も、AIによるタンパク質設計の進化に伴い、より柔軟かつ知能的なスクリーニング手法の開発が不可欠となる。