AIデータセンター投資が米経済を支える現実:成長の裏にある脆弱性とリスク
2025年上半期、アメリカの経済成長のほぼすべてがAIデータセンターの投資に依存している。ハーバード大学の経済学者ジェイソン・ファーマン氏がX(旧Twitter)に投稿したデータによると、情報処理設備やソフトウェアの投資を除くと、米国の実質GDP成長率はわずか0.1%にとどまる。これにより、製造業、小売、サービス、不動産といった伝統的経済分野はほぼ成長ゼロに近い状態だった。 この現象の背景には、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、メタ、英伟达といった超大手クラウド企業が、年間約4000億ドルをAI用データセンター建設に投じているという事実がある。これは、数年前の4倍に上り、米国企業の総資本支出の約3分の1を占めている。この金額はデンマークの年間GDPに匹敵し、欧州連合の2024年予算の2倍以上に相当する。 特に注目すべきは、2025年上半期におけるAIデータセンター投資のGDP貢献が、長年にわたって経済を牽引してきた消費支出を初めて上回った点だ。米国経済は消費主導だが、その構造が急変しつつある。 資金の流れは複雑なネットワークを形成している。英伟达がOpenAIに最大1000億ドルを投資する契約、OpenAIがOracleに3000億ドルの計算能力購入を約束する合意、そしてOracleが英伟达から400億ドル分のチップを調達するという連鎖が成立。これらの契約は2027年までに段階的に履行され、実際の支出は将来にわたる。しかし、市場は「未実行の受注」に注目し、OracleやAMDの株価は大幅に上昇。投資家は将来の収益を期待し、現時点の業績にはあまり注目しない。 こうした動きは、リスクを伴う。MITの調査では、生成AIを導入した企業の95%が投資対効果を確認できていない。また、OpenAIの拡張には4.5ギガワットの電力が必要で、これは2つのフーバーダム相当。電力供給の遅れが、インフラの実現を阻むリスクを高めている。 投資家ダヴィッド・アイーンホルン氏は「巨額の資本損失が避けられない」と警鐘を鳴らす。彼は、AI技術の長期的価値は認めるが、短期的なリターンが見込めない投資は危険と指摘。また、ウィリアム・アンド・マリー大学のピーター・オートウォーター教授は、現在のAI投資が2008年の住宅バブルと同様に「相互依存のネットワーク」を形成しており、一環の失敗が連鎖的に広がるリスクがあると警告している。 一方、TS Lombardのデイアリオ・パーキンス氏は、AI投資が労働市場の安定を支えていないと指摘。また、投資の多くが輸入品に依存しているため、GDP統計上は「正味の貢献」は小さいと分析。さらに、現在のAI投資は高負債ではなく、自由現金の再投資によるものであり、バブルの本質とは異なるとみる。 RBCキャピタルマーケッツのリシ・ジャルリア氏は、「AI投資が真の生産性向上や収益創出につながれば、GDPに正の寄与がある」と主張。しかし、その「もし」が成立しない場合、すべては「循環取引」に過ぎず、実態のない成長に終わる可能性がある。 最終的に、この現象は経済学の枠組みを超えている。AI投資が「経済の真実」か、それとも「幻想の紙の山」か。その答えは、将来の実績と市場の信頼にかかっている。