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AI時代の信頼回復に向け、企業に登場する「首席信頼責任者」の役割と課題

3日前

アメリカ社会は深刻な「信頼危機」に直面している。政府、企業、メディア、さらには他人に対する信頼が長年にわたり低下し、データ漏洩やAIによる深層偽造(deepfake)の拡大、技術の不透明性が一層信頼の崩壊を加速している。こうした状況を受け、企業の経営陣に新たな役職が登場した——「チーフトラストオフィサー(CTrO)」だ。これは、セキュリティやコンプライアンスにとどまらず、AIの倫理的利用、データ保護、企業の透明性を高めるための包括的な役割を担う。CTrOは、従来の「反応型」のCISO(情報セキュリティ責任者)とは異なり、企業の信頼を「前向きに構築」する役割を果たす。 CTrOの主な任務は、AIの信頼性を裏付ける「証拠」を提供すること。特に生成AIの普及により、事実と虚偽の区別が難しくなっており、「約束」ではなく「証明」が求められる。DigiCertのCTrO、ラクシュミ・ハンスパル氏は「AI時代では、証明が約束より重要だ」と強調。また、GongのCTrO、クリス・ピーキ氏は、「信頼はビジネスの基盤であり、競争力の源泉」と語る。Zendeskのヴァイナ・パテル氏も、「信頼こそが事業成長の柱」と指摘。 しかし、CTrOはまだ少数派の存在で、Forrester調査によると平均在任期間は2年未満。多くのケースでセキュリティ経験を持つ人物が起用される。AIの悪用リスクや、社内・外部からの信頼のギャップ(企業は「高い信頼を得ている」と感じながら、顧客は3割しか信頼していない)が、CTrOの必要性を浮き彫りにしている。 最終的には、信頼は「人対人」の感情である。CTrOの役割は、技術を越えて「人間として信頼される企業」を実現することにある。信頼は失うのは簡単だが、築くのは難しい。CTrOは、その一歩を踏み出すための新たな試みであり、企業が持続可能な信頼関係を構築する鍵となる可能性を秘めている。

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