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マイクロフルイディクス冷却技術が進化、MicrosoftとCorintisがIBM発の革新を推進。高性能チップと省電力データセンター実現へ。

4日前

マイクロソフトは、半導体の冷却技術に革命をもたらす可能性のある「マイクロ流体冷却」の実証に成功した。この技術は、シリコンの裏面に微細な溝をエッチングし、冷却液を直接流すことで、従来の冷板方式に比べて熱を最大3倍以上効率的に除去できる。実験では、AIを活用して熱発生の激しい領域にのみ冷却液を集中供給する最適なパターンを設計。自然の葉の脈絡を模した構造により、冷却効率を高めつつ、詰まりを防ぐ設計を実現。特にGPUを用いたシミュレートされたMicrosoft Teams会議環境で、最大温度上昇を65%削減する成果を確認した。 従来のデータセンターでは、ファンによる空冷や、銅製冷板を用いた液体冷却が主流だが、これらは冷却液とチップの間に複数の層が存在するため、熱の伝導効率が低下。冷却液を低温に保つ必要があり、エネルギー消費が増える。一方、マイクロ流体冷却は冷却液をチップ表面に直接接触させるため、層が不要で、冷却液の温度を下げなくても効果が得られる。これにより、ポンプ駆動のエネルギー消費も削減可能だ。さらに、需要の急増(例:毎時・半時刻に発生するTeams会議)に対応するための過剰なサーバー設置や、過負荷運転(オーバークロック)による過熱リスクも軽減できる。 この技術は、次世代AI用チップの高密度化・高性能化に対応する鍵となる。3Dチップ構造や、複数のチップを垂直に積層する設計も、熱管理の壁を越えるために不可欠だが、マイクロ流体冷却がそれを可能にする。マイクロソフトは、自社のAIアクセラレータ「Maia」やArmベースCPU「Cobalt」への適用を視野に入れ、技術の普及を推進している。 同技術は、IBMが2008年以降に開発した3Dチップ内冷却技術の延長線上にある。特に2013年の「ICECool」プロジェクトで実証された、チップ層間に冷却流路を埋め込む方式は、現在のマイクロ流体技術の基盤となっている。現在、Georgia TechやBinghamton大学、Meta、KLA Instrumentsなども同分野で研究を進めている。マイクロソフトは、スイスのスタートアップ「Corintis」と提携。同社が開発したAI駆動設計ツール「Glacierware」は、熱分布に応じた最適な冷却経路を自動生成し、流速の低減と圧力損失の55%削減を実現。 技術の課題は、製造プロセスへの統合(チップ製造のどの段階で溝をエッチングするか)と、サプライチェーンの変更。ただし、使用する冷却液(水とプロピレングリコールの混合液)は既存の冷板と同一であり、導入コストの上昇を抑えられる。 マイクロソフトは、エネルギー効率の向上が持続可能なデータセンター実現の鍵だと強調。一方、効率化が使われる量を増やす「ジェヴォンズの逆説」の懸念も指摘しており、AIの普及が環境負荷を増大させる可能性も認識している。しかし、冷却技術の進化は、性能と効率の両立を可能にする重要な一歩である。

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