AIが一度に複数の遺伝子マーカーを病理画像から検出、大腸がん診断の高速化・コスト削減へ
ドイツのドレスデン工科大学(TU Dresden)の研究チームが、大腸がんの複数の遺伝的バイオマーカーを一度に検出できる新たなAIモデルを開発した。この研究は、欧米7カ所の医療機関から集められた約2,000枚のデジタル化された組織スライドと、臨床・人口統計・生活習慣データを用いた多施設共同研究。研究チームは、通常の染色組織画像から、複数の遺伝的変異を同時に予測する「マルチターゲットトランスフォーマーモデル」を構築。従来のAIモデルは単一の遺伝子変異に限定されていたが、今回のモデルはBRAFやRNF43の変異、および微小反復領域不安定性(MSI)といった複数のバイオマーカーを同時に検出可能で、一部の変異は臨床的にまだ重要視されていないものも含まれている。 研究の第一著者でTU DresdenのEKFZデジタルヘルス研究センターのマーコ・グスタフ氏は、「多くの変異はMSIを持つ腫瘍で頻発しており、組織の形態変化は複数の遺伝的変異が共同で影響している可能性がある」と指摘。AIは個々の遺伝子変異を別々に検出するのではなく、共通する視覚的パターンを認識することで、変異と組織の形態変化の関係を解明している。 このモデルは、既存の単一ターゲットモデルと同等以上に精度を発揮し、BRAF変異やMSIの予測において高い性能を示した。病理学的判断は、アウグスブルク大学病院のニク・G・ライタム医師ら経験豊富な病理医が担った。同研究の責任者であるジャコブ・N・カーサー教授(TU Dresden・NCT/UCC)は、「AIは診断プロセスを大幅に加速し、分子検査の前段階での患者選別や個別化治療の意思決定に役立つ可能性がある」と評価。今後は、このアプローチを他のがん種にも拡張する予定だ。研究は『The Lancet Digital Health』に2025年4月に掲載された。