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AIが蛋白質構造のみで最適ながん治療薬候補を自動設計

3日前

韓国科学技術院(KAIST)のキム・ウヨン教授らの研究チームが、がんの標的変異に特化した薬剤候補をAIで自動設計する新技術を開発した。この成果は学術誌『Advanced Science』に2025年発表され、従来の薬剤開発プロセスの根本的な改善を示している。 従来の薬剤開発は、病気の原因となるタンパク質(例:がん細胞の受容体)を特定し、その結合可能な分子候補を膨大な数の中から探索するという、高コストで時間がかかるプロセスだった。しかし、キム教授チームが開発したAIモデル「BInD(Bond and Interaction-generating Diffusion model)」は、ターゲットタンパク質の構造情報のみを入力として、事前の分子データがなくても最適な薬剤候補を設計できる。 このモデルの特徴は「同時設計アプローチ」にある。従来のAIは分子生成と結合予測を分けて行っていたが、BInDは生成過程そのものに結合機構(非共有結合相互作用)を組み込み、構造と機能を一貫して最適化する。これにより、結合親和性、薬物的性質、構造安定性といった複数の重要な要件を同時に満たす分子が得られ、実用性が大幅に向上する。 モデルは「拡散モデル(diffusion model)」を基盤としており、AlphaFold 3と同様の生成アーキテクチャを採用。ただし、AlphaFold 3が原子座標を予測するのに対し、BInDは化学法則(結合長、距離など)に基づいた知識を組み込み、より現実的な分子構造を生成。さらに、過去の優れた結合パターンを再利用する最適化戦略により、追加学習なしにさらなる性能向上を実現した。 特に注目すべきは、EGFR(表皮成長因子受容体)のがん関連変異部位に選択的に結合する分子を成功裏に設計した点。これは、過去の研究で必要な結合パターンの事前情報に依存していたのに対し、BInDは全くの未知の状態から設計を可能にした。 キム教授は「このAIはターゲットタンパク質との強固な結合に必要な特徴を学習し、事前の分子情報なしに最適な候補を設計できる。薬剤開発のパラダイムを大きく変える可能性がある」と述べている。化学的根拠に基づく生成により、開発スピードと信頼性の両立が期待される。

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