165万件の臨床試験データを統合した構造化データベース「TrialPanorama」公開、AIエージェント開発に向けた基盤が整う
米国イリノイ大学香槟校の博士卒業生で、Keiji.AI共同創業者の王子丰氏が率いる研究チームは、臨床試験分野のAI活用を推進するため、世界最大級の構造化データベース「TrialPanorama」を構築した。このデータベースには、15の国際的データソースから収集された165万7,476件の臨床試験記録と、それらを統合した9,000件以上の系統的レビュー論文が含まれており、試験設計、治療介入、適応症、生物マーカー、主な評価項目といった核心要素を標準化して収録。また、DrugBankやMedDRAといった国際医学本体と連携することで、データの一貫性と拡張性を確保している。 このデータベースの構築は、AIが臨床試験現場で実用化する上で直面する二大課題——高品質な訓練データの不足と、実際の業務タスクを反映した評価基準の不在——に応えるための取り組みである。特に、既存の商業データ(例:Citeline)は高価でアクセスが限られ、公共データ(ClinicalTrials.gov)は米国登録試験に偏るという課題があった。TrialPanoramaは、こうした制約を克服し、グローバルな視点でのデータ可視化を可能にした。 さらに、研究チームは臨床試験の主要タスクを網羅する評価ベンチマークを初めて開発。研究検索、研究選定、エビデンス要約、試験群設計、入退院基準策定、主要評価項目選定、サンプルサイズ推定、完了状況評価の8つのタスクを含み、5つの最先端大規模モデルを用いた実験で、現行モデルのゼロショット性能は臨床試験の高精度・高信頼性を要求する場面では不十分であることが示された。 この成果は、AIアジェントの開発に直接貢献する。TrialPanoramaは、構造化されたデータとモデルコンテキストプロトコル(MCP)サーバーとの連携により、臨床試験専用のAIアジェントの構築・統合を容易にする基盤となる。Keiji.AIは、同データベースを活用してTrialMindやTrialGPTといったAIツールを開発し、武田薬品、アビビ、レジェネロン、IQVIA、Guardant Healthなど大手製薬企業やCROと実証実験を進めている。 王子丰氏は、初期の「技術自慢」から、臨床現場の実務者と深く対話することで、AIが本当に役立つ問題を再定義する重要性を学んだと語る。その経験が、研究から実用化へとつながる「問題から始まり、応用へと至る」プロセスの原動力となっている。